東村アキコさんの自伝漫画で、マンガ大賞2015年1位、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞などを受賞している「かくかくしかじか」は本当に面白い。高校生~社会人まで幅広い世代にお薦めしたい。
≪概要≫
主人公”林明子(=東村アキコ)”が高校3年生のときに通いだした絵画教室の先生”日高健三”と美大合格を目指す。
見どころは、①日高先生の人柄、②マンガ執筆時の東村アキコの心境シーン。
①の日高先生の人柄を簡単に説明すると、基本的には竹刀を常に持ってスパルタ指導を行う先生。しかし、絵画教室がない日も”林明子”のために無償で毎日指導を行ったり、入試前日にお守りをくれる優しい一面がある。
②の心境シーンというのは、「その時の私は何もわかっていなかった――――今の私には分かります、今さらもう遅いよね、怒らないでね先生」といった描写。私はとにかくエッセイや漫画の心情描写が好きで、普段わからない他人の心の中が読めるし、感情移入する大事なポイント。
2巻では、”林明子”が大学に入学してから、絵が描けなくなるところ。多くの大学生がそうだと思いますが、大学に入ってからも受験のときと同じ熱量で勉強を続けられる人は少ないでしょう。”林”も大学に入ってから、絵を描かなくなります。「だめだ、今回も最初に置く色間違った」とイライラし、絵を描くことから逃げ、遊ぶ”林明子”。そんな状態のなか、日高先生が林の通う大学のある金沢に来るという―――
3巻は、大学卒業後の話。漫画家という夢があるのに、大学時代に何も行動せずに卒業し、宮崎に帰ってくる”林明子”。無職の林に日高先生はとにかく「描け」と言う。そこから日高先生の教室で講師を始める。講師をやりつつ、父親の薦めでコールセンターで働き始めるが、「絵を描く人になりたくて美大に行ったはずなのに」なぜパソコンと一日中向き合わなくてはいけないのか。そこから抜け出すことを原動力に夢に向かって漫画を描き始める。
4、5巻では、漫画家として忙しい日々を送る中で、ぶれずに絵を「描け」という日高先生との距離感が描かれている。忙しいからと自分を正当化して、大切な人と過ごす時間をおろそかにしてはいけない、と教えられます。
美大受験から、漫画家になる道のりを題材にして、「人との距離感、共に過ごす時間の大切さ」を考えさせてくれる素晴らしい漫画です。ぜひ、読んでみてください。
≪基本情報≫
全5巻(完結)
連載期間:2012年1月~2015年3月