「かくかくしかじか」、「海月姫」、「ママはテンパリスト」、最近ではドラマ化された「偽装不倫」で有名な東村アキコさんの「雪花の虎」を紹介します。
「雪花の虎」は東村アキコさん初の歴史漫画であり、上杉謙信が女性だったら―――という説を描いています。
はじめに、上杉謙信女性説の根拠についての記載があります。作中から抜粋すると、以下の通り。
- 戦国武将としては珍しく、妻を娶らず生涯独身であった
- 死因の「大虫」が、現代でいう婦人病の一種であった
- 毎月十日前後に腹痛を発生し、合戦中でも引き返すことがあった
- 謙信が生きた時代の女性城主は珍しくなかった
- 山形県米沢市の上杉神社残存する謙信の衣類には真っ赤な花模様のもの(女性もの?)がある
- 越後白山神社のお堂には、「毘」の旗を差した女性像が祀られている
このような根拠の列挙から、「確かに女性かもしれない!」とのっけから作品に引き込まれてしまいます。
さらに、「武田信玄、織田信長、豊臣秀吉、そんな群雄割拠の戦の世を、美しき女人・謙信が勇ましく艶やかに駆け抜けたなんてさ、夢があっていいじゃないの」と東村アキコさんの気持ちが続き、「確かに夢があっていいかもしれない、面白そうだ!」とすぐこの作品の虜になります。
物語は、虎千代(=上杉謙信の幼名)が産まれ、幼少期に禅寺の林泉寺で修行を行うところから始まります。ここで、謙信の人生に大きな影響を与える修行僧の宗謙と出会います。謙信の「謙」の字は、この宗謙から一字貰ったそうです。
さて、少し横道に逸れて、、、
「完全無欠の偉人なんていません。歴史上の人物も、みんな欠点をもったふつうの人間なんです。ふつうの人間が、歴史を作ってきたのです。」偉人の長所を学ぶと同時に欠点も知ることで、歴史が身近なものになると書く、東京大学史料編纂所教授の本郷和人さんの「やばい日本史」にも、上杉謙信が取り上げられていたので、抜粋させていただきます。
上杉謙信のすごい
- 14歳で武将として登場
- 生涯70回も戦に出かけ、勝率は9割以上
- 正義感が強く、ライバルの武田信玄が塩不足で困ると、塩を送ってあげた(「敵に塩を送る」の語源)
上杉謙信のやばい
生涯結婚せず、跡継ぎ候補として甥の景勝と、北条家の景虎を養子にするが、どちらを跡継ぎにするか決めないまま、トイレでキバって急死。景勝と景虎が泥沼の内乱をしたことで、越後の土地も家臣も民衆もボロボロになってしまう。らしいです。
ちなみに、「やばい日本史」の中での上杉謙信のやばいはそこまでインパクトはなかったです。例えば、夏目漱石のやばいは「鼻毛を抜いて原稿用紙に一列に並べていた」です。謙信がトイレで急死したことは史実のようなので、「雪花の虎」では謙信の死はどのように描かれるのか気になるところ。
女性の謙信を描くことで、逆に「男らしさ」とは何なのかを考えさせられる素晴らしい作品だと思いました。女性が読んでも、こんな強い女性になりたいと思えるはずです。歴史が全然わからない私でもどんどん読めますし、入り込めます。老若男女におすすめです。